Black,White,and Blue.











「うわーお前汚れてんなあ…」

そんな声を漏らしながらも、快斗は楽し気に温かく湿った布を用意する。

先ほど、弱りきった犬になんとか水だけは飲ませたところだ。


家に帰ると母親はちょうど外出中でおらず、それで自分ひとりで犬の手当てをする羽目になった。
汚れまくった犬――しかも瀕死の――の手当てなんてどうすればよいか分からなかったが、持っている知識でとりあえずの処置は施した。





そっと温かい濡れたタオルで、毛に染み込んだ汚れを拭き取っていく。

本当はシャワーやシャンプーしたいところだが、行き倒れの犬にそれは無謀というものだろう。

「お前何であんなとこに倒れてたんだ?」

俺が通りかかんなかったらそのまんまだったんだぞ、とかとりとめの無いことを喋りながら、頭、身体、指先まで丁寧に拭っていく。

相も変わらず、犬は眼を閉じ、快斗にされるがままに身体をふかれて、どことなく気持良さそうだ。




どうやら犬の元の毛の色は白に黒の模様が入ったハスキーのようなものらしかった。
かといって毛の質や身体的特徴はハスキーのそれではなく、それどころか快斗の知っているどの犬種にも当てはまらない。

「雑種か?」

短いがふわふわとした毛が気持ちいい。
大人しく快斗になでられるところからして、まったくの野良犬ということでもなさそうだ。(単に暴れる力がないだけかもしれないが。)



「ま、いっか」










「…?」


首もとのあたりの一箇所に、なにかの図形のような形の、ひきつれた傷あとのようなものがあった。



軽く触れてみる。
途端、寝ている犬の眉間にしわがよった。


「まだ最近の傷か…」


他の犬とけんかでもしたのだろうか。
それなら首だけではなくもっといろんな場所にそれらしいあとがありそうなものだが。


「これのせいで倒れてたんだな」


一応塞がってはいるが、相当深そうだ。
食べ物が十分に取れず、弱っていく一方で、ああして倒れることになったんだろう。


快斗はそう結論付けると、だいぶ汚れの落ちた白っぽい毛並をなでた。



「しばらく、うちにいろよ」




答えるように、犬がゆっくりと眼を開けた。


蒼い眼で快斗を見上げて…ぺろ、と快斗の手を舐めた。


「お礼…か?」


快斗が驚いていると、犬はふい、と向こうを向いてしまった。
まるで照れたようなその仕草に、自然と笑みがこぼれる。

















「まずは…名前、だよな」






















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(2004/05/12)