――――――――――――――
幽霊話そのいち
――――――――――――――
俺の目の前にはひとつ、カプセルがおかれていた。
それを黙って見つめる俺たち三人。
阿笠邸の地下室、今は灰原哀が使っている部屋で、博士と哀と俺はソファに座って顔を突き合わせていた。
「…保障はしないわ。これはあくまで今ある段階のデータでの解毒剤よ。貴方がそれを使って完全に元の体に戻れる確率は…そうね、20%」
完全に、というのがポイントなのである。
不完全であれば、過去に何回かそうであったようにすぐに子どもに戻ってしまうだろう。それは元の身体で「暮らしていく」こととは程遠い。
20%という数字は決して高くはないが、低くもなかった。むしろ組織の壊滅作戦の際に奪還できたデータの量で何倍にも跳ね上がったほどだ。もとが偶発的な作用と体質による幼児化だったから、保障もできない。
けれど灰原が、それこそ全力を注いで生み出したカプセルだ。
保証はなくとも、確率が20%であっても、それに賭けようという気持ちがあった。
向かう博士と哀の視線を受け止めて、俺は言った。
「飲むよ」
簡潔な返事で、俺はカプセルを手に取る。
コップに一杯用意された水で、カプセルをのどに流し込んだ。
いくつかの人の顔が頭をよぎる。80%は請合われてないのだから、その辺は文字通り走馬灯というやつかもしれない。
そして――…
*****
怪盗KIDは一時期ほどではないにしろ、今もまだ新聞の一面を騒がす存在である。
その派手なパフォーマンスで中森警部と掛け合うのもいつものとおり。
ただ、彼は少し張り合いを感じることができずにいた。
もちろん仕事は楽なほうがいいに決まっているが、一度感じたスリルとサスペンスは止められないし、止まらない。
――つまるところ、好敵手の存在が欠けているのであった。
そんなつながりから、KIDは夜空を駆けながらふと唯一認めた小さな探偵の姿ことを思い出した。
あいつが関わっていたらしい組織が大壊滅したというニュースは裏の世界を震撼させた。これからその業界は大きく揺れるだろう。KIDが追っている組織もまた、今のところはほかの出方を伺っていはいるがそのうち活発になると思われる。
あの組織がいだいていた夢というのも、パンドラに無関係なことではない。そういった意味でもあの小学生探偵の動向は注目に値するが、ここのところ何の音沙汰もないのが気になった。今はもう毛利宅を出て両親のところに帰っている「らしい」江戸川コナン。
実際には組織をつぶしに行くための、表向きの別離であったことはKIDも承知している。
彼とその仲間が無事であるのは確認したが――だが、工藤新一の姿を取り戻しているという情報もまた、なかった。
(どういうことだ?なにかまずいことが…とか?)
少々心配になってくるのがKIDのお人よしなところであろう。
(今夜の仕事が終わったら、少し探ってみよう)
そう決めてKIDは今夜のビッグジュエルを確認すべく中間地点のビルへと音もなく降り立った。
大きな大きなダイヤモンド。
半ばあきらめながらもわずかな期待をかけて、それを月にかざしたとき――なんかへんなものが見えた。
ちなみにパンドラではない。それは間違いない。
「…は?」
いや、へんなものというか。
なんというか。
恐る恐る、KIDはビッグジュエルを目からはずして、自分の正面に浮かんでいる物体を見た。思わず目をこする。
が、そこにいたのはまぎれもない、
「工藤、新一・・・・・・・・・・・・・・・・・の幽霊?」
『失礼だなっ!』
いやあなた、だって浮いてますから。
突っ込みは声にはならずに、KIDはただ口をパクパクさせただけだった。
そこには薄っすらと光った、工藤新一の幽霊が憮然として空中に浮かんでいた。
to be continued...
(06/11/08)
続きは考え中です。(オイ)
だいぶ前に書いたものを発掘。