厄日
なんだかその日は厄日だった。
まず昨日夜更かししたせいで朝を寝過ごし、九時過ぎに隣家を訪ねることになっていたのをうっかり失念した。
灰原から携帯にかかってきた電話は、最初は心配も半分だったと思うのだが、俺が寝坊という単語を使った瞬間に3割り増しで声が怖くなった。
待ってるわよ、なんてなんでもない言葉が恐ろしく聞こえた瞬間だ。
その後、昼飯をご馳走になった後でおれはまたしても服部との約束を忘れていたのに気がついた。
すまん、服部。
家に忘れた携帯には着信が9件。(全て服部)
そこから駅まで直行して、今回は新幹線で来たらしい服部を迎えて、「遅いでくど」まで聞いたところで、俺たちは引ったくりを目撃した。…してしまったというべきか。
もう脊椎反射で俺たちが逃げる犯人を追い、服部が回り込んで俺が蹴りを一発かまして、犯人は無事に捕まった。
捕まったのはいいのだが、そいつはなんかやばめなやつで、「こんな美人に捕まるなんて俺の人生捨てたもんじゃない!」なんてほざいてやがった。腹がたったからもう一発おとなしくしとけって見舞ったんだが、そいつが喜ぶだけからそれ以上制裁は加えられなかった。この○ゾめ。代わりに服部が見張りに立って、そいつはちょっとしょんぼりしてた。いい気味だ。
警察に引き渡すとき、皆さんの犯人に対する目がちょっとばかし怖かった。なんでだろ。
けどその後は「気をつけてね」とか「挑発しちゃいかんぞ」とか「護衛をつけようか?」とか、心配されまくった。女子どもじゃあるまいし、過保護だよな。ったく。
丁重にお断りして服部と喫茶店に入る。なんだか本題らしい、「今度の夏休みにどこへ行きたいか」についてめっちゃ聞かれた。暑いから出歩きたくないっていったら服部がへこんだ。
しかたないから室内ならいいぜ、って言うと見事に復活。おもしろい。
結局大阪府警に連れて行ってもらうことになって、喫茶店を出た。するとなんか高校生くらいの女の子グループが俺に「あの、工藤新一さんですか?」って聞いてくるからうそつくのもダメだし、はいって答えたら大音量で叫ばれた。ハイテンションについてゆけずに服部と立ち尽くしているうちに握手され、サインを書かされ、嵐は去った。疲れた。何だったんだ、あれは。
「…」
服部と二人でげんなりしてから、杯戸町へ帰るためにバスに乗ることにした。服部は泊まっていくという。断る理由もないので了承していると、服部の携帯がなった。お約束のように着信は六甲おろしだった。さすが服部。
電話の相手は服部の幼馴染、遠山和葉だった。どうやら彼女との約束を忘れていたらしい。ひどいやつだ。それにしても、彼女の剣幕と声量にはすごいものがある。離れていても聞こえてしまうくらいだ。きっと腹式呼吸が完璧なんだろう。呼び込みに使える人材だ。
服部は「ほんまにすまん!工藤!ほなまた電話するしな!」と言って大阪へ帰っていく。そんな名残おしそーにしなくたって、俺は平気だぜ。大阪府警は逃げないから。(←服部が帰るのはいいのか/笑)
しかしバスに乗ってから、俺は今うちの冷蔵庫に何も入っていないことを思い出した。夜や朝を抜くくらいはたいしたことはないのだが、(※健康に悪いです)今朝灰原に警告、いや注意されたばかりでもあるし、おとなしく下車駅の近くのディスカウントストアに向かう。いくつか買い込んだところでばったりと偶然に蘭に出くわした。どうやらおっちゃんのつまみの材料を買いに来たらしい。
ついでに送ってくことにして、蘭と二人で事務所へ向かう。道中で学校にちゃんと来いだの飯は食えだのと注意された。一食や二食抜いたくらいじゃ死なないってなことを言ったら問答無用で今日の夕飯を馳走になることになった。とはいえ、訪ねてみればおっちゃんはすでにぐでんぐでんに酔っ払っていて、やたら絡まれた。珍しく蘭の母さん、妃さんも一緒だった。家族水入らずのところに長居は悪いとは思ったが、妃さんまで軽く酔って俺に話しかけてきた。俺と蘭は恋人として付き合ってるわけではなく微妙な関係なのだが、二人は聞く耳持たないというか、しらふの時にはありえないハイテンションだった。やっぱり似たもの夫婦だ。そして酔っ払いに何を言っても無駄だ…!
むりやりポン酒を飲まされ、ねちねちと絡まれても強く出れなかったのは幼いころから散々世話にもなったし、やっぱり第二の家族のようなこの毛利一家が俺は好きだからだ。とはいえ、しんみりする暇もなく、否やを言う隙もなく、抗うすべもなく俺は二人の酔っ払い夫婦の世話をする羽目になった。
帰ったのは夜の十二時前だった。なぜかすでに電気のついていたリビングに入ったときに、俺は初めて「それ」に気がついた。
――怪盗、キッド。
しかもなぜかくつろいでやがる。ソファに横向きに座ってシルクハットも脱いで。…あ、なんか腹立ってきた。
「お邪魔してます♪めーたんって」
「うるさい黙れ」
一言吐き出すと、俺はやつを電光石火で家の外に放り出してそのままソファに倒れた。
ああ、厄日よさらば。
明日がいい日でありますように。
(05/07/26)
そんな新一くんの日常。
きっと原作のままで元通りに戻ったらこんな感じですね。
服部の扱いがひどいのは管理人がそーゆー目で見てるから。笑
キッドさんの扱いがひどいのはご愛嬌。
二人はいじめられっこキャラですなあ…(対新一においてのみ)